イギリス女性史研究会・成蹊大学文学部学会共催シンポジウム
「奴隷貿易廃止と女性たち ── 200年目の記憶を継ぐために」

 
シンポジウムの趣旨
 
2007年はイギリスの奴隷貿易廃止200年を記念する年でした。イギリスが関わった奴隷貿易・奴隷制度は、ジェンダーとエスニシティの問題をグローバルな次元で歴史的に考察する上で重要な鍵を握るものであり、同時に極めて今日的な課題を私たちに投げかけています。200年目という節目をこえた今、奴隷貿易・奴隷制度の歴史を軸にイギリスとアフリカ、過去と現在のあいだをつないだとき、そこには何が見えてくるでしょうか。このシンポジウムでは、特に女性の視点から、こうした問題に迫ってみたいと思います。
 
■日時:2008年9月28日(日)13:00〜16:30
 
■場所:成蹊大学 3号館303教室
 
    住所:東京都武蔵野市吉祥寺北町3−3−1(吉祥寺駅より徒歩15分)
 
    ※アクセスにかんする情報はこちらでご確認ください
 
    http://www.seikei.ac.jp/gakuen/access.html

 


プログラム 

□研究会からの趣旨説明(13:00-13:15)
 
□報告1(13:15-13:45)
  大石和欣(放送大学)
  「共感の疼き ── 奴隷貿易廃止運動と女性の自己表象」
 
□報告2(13:45-14:15)
  富永智津子(宮城学院女子大学)
     「アフリカから見る奴隷貿易・奴隷制とジェンダー」
 
□コメント1(14:30-14:50)
  奥田伸子(名古屋市立大学)
  「20世紀後半のイギリス社会における”Race”IssueとFeminism」
 
□コメント2(14:50-15:20)
   井野瀬久美惠(甲南大学)
   「奴隷貿易廃止200年 ── 市民戦略としての記憶の形」
  
□報告者からの応答(15:20-15:40)
  
□全体討論(15:40-16:30) 
  司会進行・趣旨説明:竹内敬子(成蹊大学)
 
お問い合せ

 

■報告・コメント要旨

 
□大石和欣「共感の疼き ── 奴隷貿易廃止運動と女性の自己表象」
奴隷貿易廃止という偉業は、なにもトマス・クラークソンやウィリアム・ウィルバーフォースなどの男性たちのみに与えられる人道的勲章ではない。クラークソン自身が「司祭補佐」として讃えた女性たちの貢献は無視できないほど大きい。
 
女性たちは奴隷貿易廃止というひとつの目的のために、宗派横断的に連携しながら運動を起こしていった。パンフレットや詩を書き、ウェッジウッド製の奴隷貿易反対バッジを胸につけ、西インド産砂糖の非買運動を繰り広げていく。それは女性の美徳である「共感」や「家庭性」を基盤にした「慈善活動」の一種であると同時に、当時の女性に許された数少ない社会活動であり、「公共圏」において政治的意義さえ持った行動であった。
 
女性たちは慈善活動に潜むそうした「家庭性」と「政治性」の二律背反をどこまで意識して奴隷貿易廃止運動を繰り広げたのであろうか?そこにはジェンダー、政治、文化のさまざまな領域において重層的に錯綜したイデオロギーが包摂されている。
 
奴隷貿易廃止に絡んだ女性の言説の中にみられる「慈善を行う女性」の自己表象を追いながら、女性たちにとって奴隷貿易廃止運動が持ちえた意義を再考してみる。
 
□富永智津子「アフリカから見る奴隷貿易・奴隷制とジェンダー」
アフリカ各地には、大西洋奴隷貿易以前にも奴隷制度が存在し、帰属集団からはずれたものが、生産力向上のための労働力として利用されていた。女性奴隷の価格の方が男性奴隷のものより高く、これはアフリカでは生存に不可欠な労働のほとんどを女性が担っていたためと考えられる。
 
しかし、大西洋奴隷貿易においては、男性奴隷への需要が高く、男性人口が流出し、アフリカにおける女性人口の相対的上昇をもたらした。これは、一夫多妻制下での男性の優位、売春婦の増加などの影響をアフリカ社
会にもたらした。大西洋奴隷貿易廃止後もアフリカ社会の奴隷制は残存した。女性奴隷の解放は男性奴隷の解放より遅れるなど、奴隷制の歴史は、男性が女性の労働とセクシュアリティを支配するというアフリカ社会のジェンダー・イデオロギーと深く関わっているのである。
 
□奥田伸子「20世紀後半のイギリス社会における”Race”IssueとFeminism」
 1982年、Hazel Carbyは"White Women Listen! Black Feminism and Boundaries of Sisterhood"という刺激的な論文を書き、第二波フェミニズムの開始から10年以上経過した1980年代初頭の女性史、女性研究における'racism'を批判した。白人女性中心のイギリスの女性運動が、「カラード」女性の存在を認識したのは1980年代後半になってからだと
指摘する研究者もいる。本報告は、1980年代以前のアフロ・カリビアン女性の社会運動を紹介しながら、女性史、ジェンダー史におけるethnicityの重要性を検討する。
 
□井野瀬久美惠「奴隷貿易廃止200年 ── 市民戦略としての記憶の形」
 「奴隷貿易廃止200年目」に当たる昨2007年、さまざまな都市でこの歴史的出来事を顕彰するイベントがおこなわれた。各都市は「都市戦略」としてこの問題にどう取り組んだのか? グローバリズムの現代、奴隷貿易はどのように捉えられているのか? 「奴隷貿易廃止100年」と「200年」はどう違うのか? こういった問題を、各地の「200年」イベントの写真のスライド・ショーを交えて論じる。