【シンポジウム】「身体とジェンダー -19世紀から20世紀にかけてのスポーツとファッションを媒介にー」

 

12月1日(日)13時~16時50分

麗澤大学東京研究センター (新宿アイランドタワー 4階)

 

■ 研究会

12時40分~       受付

13時00分~13時05分   会長挨拶(竹内)

13時05分~13時10分  『ジェンダーと女性の歴史』創刊にあたって(高田実)

13時10分~13時20分   シンポジウム趣旨説明・報告者紹介 (香川せつ子)

13時20分~14時05分   第1報告 (池田恵子)  

14時05分~14時50分   第2報告 (眞嶋史叙)  

14時50分~15時10分   ~ 休憩 ~

15時10分~15時25分   コメント(塚本有紀) 

15時25分~16時25分   全体討議

 

■ 総会

16時30分~16時50分 総会

 

■ 懇親会

17時~19時  アイランドタワー 1階 イタリアン・レストラン「タント・ドマーニ」

 

【シンポジウム】   

「身体とジェンダー - 19世紀から20世紀にかけてのスポーツとファッションを媒介にー」

  報告1 池田恵子

「エリザベス・ヒューズの『女性の身体運動』を巡って ― 日英比較女性スポーツ史の試み―」

  報告2 眞嶋史叙 

     「ボディとグローバル経済 ― 何がファッションを動かしてきたか?」

  コメンテーター  塚本有紀

  司会  香川せつ子

【全体趣旨】 

◎ 香川せつ子 (司会)

ジョーン・スコットが、ジェンダーを「肉体的性差に意味を付与する知」と定義してすでに四半世紀が経つ(Joan Wallach Scott, Gender and the Politics of History, 1988)。身体が社会的構築物であることは自明の定説となっている。なかでも性による諸器官諸機能の差異は、その時代の文化的精神的価値と直結し、さまざまな方法で誇張され歪曲もされてきた。筋肉隆々の身体を「男らしさ」の、柔らかな身体曲線を「女らしさ」のシンボルとする文化は、身に付ける衣装や装具を通して様式化し、教育や訓練によっても維持・強化されてきた。さらに、ある時には軍事力増強をもくろむ国家の政策を通して、またある時には生殖技術に代表されるような科学の力によって、個人の身体への社会的な介入と管理が露骨に行われた。

本シンポジウムでは、19世紀から20世紀にかけてのイギリス社会における身体観の変化を、スポーツとファッションという二つの側面からみていきたい。この時期は、一方で女性の高等教育や社会進出をめぐって伝統的なジェンダー規範が揺さぶられ、他方では、帝国の拡大や科学の発達を背景に身体や健康への関心が高まった時期である。こうした時代背景のもと、スポーツが性差や階級を越えて流行し、また女性のファッションにも大きな変化が表れた。テニスやホッケーの試合に女子学生が熱中し、自転車に乗って疾走するレディの姿が話題になったのは19世紀末であった。20世紀には、断髪やショートスカートに身を固めたニュー・ウーマンやモダン・ガールの登場へと至る。ヨーロッパで始まった新しい社会文化は世界経済の波に乗って地球を回り、遠いアジアの一国である日本にも影響を与えた。

身体の積極的な活動であるスポーツと、身体を包み整えるファッションという二つのレンズを通してみたとき、人々の身体観はどう変化し、またどう連続しているのか。またそのことは、当時の社会変化やジェンダー規範の変化とどう関連するのか。本シンポジウムでは、これらの領域を専門とする研究者に登壇いただき、様々な観点から議論を膨らませていきたい。

[第一発表 要旨] 

◎池田恵子 

「エリザベス・ヒューズの“女性の身体運動”を巡ってー日英比較女性スポーツ史の試み―」

「コルセットにロングドレスからブルーマーズへ」といった衣服改良のプロセスは、時系列に沿って漸増した、女性の身体活動における単線的な解放の脈絡を想起させるかもしれない。あるいは、「スポーツとジェンダー」に関する歴史も、早期にスポーツにかかわったおてんば娘が直面した、特殊な空間における個別の物語のように思われがちであるかもしれない。しかしながら、本報告では、女性の身体運動を巡り、複層的なジェンダー空間がかかわっていたこと、中等教育の変革に功を奏した初期のフェミニズムは、保守的なイデオロギーに基づく社会全般の動向と不可分な形で体育・スポーツを利用したこと、水面下で潜在的な解放のエネルギーを蓄えていた異なるジェンダーとスポーツ空間が初期のフェミニズムを凌駕することよって達成されたことの経緯の一部を示したい。体育・スポーツは、サブカルチャーとして、狭い社会的範疇において作用したのではなく、社会全体に時代のイデオロギーを浸透させるための根本的なツールとして利用された。その際、イギリス人女性、エリザベス・フィリップス・ヒューズの「女性の身体運動」に関する叙述と帝国主義下の日英比較の観点が有効である。

1885年、ヒューズはケンブリッジ・トレーニング・コレッジ女子教員養成校の校長に就任し、退任後の1901年から1902年にかけて日本に滞在した。彼女が理想とした女子教育はイギリスにおける当時の教育理念に基づくものであったが、日清・日露戦争という二つの戦争の間に紹介されたイギリス流の教育は、送り手、受け手、双方ともに帝国主義的解釈から免れ得ぬものであった。日英同盟(1902-1922)の時期には、国民統合に資する文化規範が大いに紹介された一方で、外国の脅威を前に、潜在的な文化的ナショナリズムが成長した時期でもあった。したがって、イギリスの教育規範は伝統的な日本的価値に合致するよう再解釈される必要があった。顕著な例が「良妻賢母」という思想である。同様に、同時期において、イギリスのパブリックスクールの影響を受けたスポーツ教育思想、アスレティシズムが日本流の新武士道、新士道といった概念によって解釈されている。日本に紹介されたヒューズの論稿は、こうした伝統の創造の事実を示すものであり、彼女が啓発した「女性の身体運動」は、良妻賢母の思想に強く影響を与えたイギリス中流階級の女性教育理念に基づき、かつイギリス中流階級の男性のエリートの教育理念を補強している。それらは初期のフェミニズムが有した保守的で帝国主義的な側面をわかりやすく投影するものであった。

[第二発表 要旨] 

◎ 眞嶋 史叙

「ボディとグローバル経済 - なにがファッションを動かしてきたのか」

ファッションを動かしてきたのは何であったか。20世紀のファッションはオートクチュールと既製服産業の相互依存関係に動かされ、シーズンごとに生み出され供給されてきたものであった。ファッションが大量生産され複製される時代、ファッションの新しい流れを予測し誘導するために、企業間の戦略的な互恵関係が制度化されていった。その代表的な試みがシーズンごとのファッションショーであった。19世紀には、しかしながら、その末期にこれらファッション企業の萌芽がみられるものの、全般を通じて考えてみると20世紀とは違う論理で動かされていたようだ。また、長い19世紀以前の、産業革命以前の時代からの、長い過渡期にあったといえる。本報告では、多くの服飾史家や、歴史家、人類学者を魅了してきた、19世紀のファッションの変遷について、その一世紀をかけた長期的な変化の動因を考えていきたいと思う。

19世紀のファッションの変化は、アングルの肖像画などに描かれ、しばしばスカート幅の広さや形状など、ボディラインのシルエットの変遷を持って語られてきた。本報告では、消費者である女性の実際のボディラインの変遷という需要側の動因と、ボディラインを補整する衣服や下着を製作し販売した供給側の動因の二つに分けて順に考えていきたい。まず需要側では、ファッションのイノベーターとエミュレーター、すなわち他人、特に下位の女性とのファッションの差異化を求める上流階級および上層中産階級と、上位の女性とのファッションの同一化を求める下層中産階級および労働者階級とを想定したうえで、イノベーターによるボディラインの選択は、実はエミュレーターの実際のボディラインの変化に対応し差異化を目指したものであったのではないかという仮説を検証していきたい。

次に、理想のボディラインを獲得するための補整衣服にたいして需要がある中で、供給側ではいかにしてファッションを創出し、新しいものを売り出していったのか、その動因を考えていく。これまで、オートクチュールの主導権について言及されてきたが、本報告では、既製服が普及する前の19世紀には、仕立屋は顧客との対話の中で衣服のラインについて考える際、その時に手の入った生地を重要な判断材料としていたという点に注目する。テキスタイル産業がなにを供給したかが、ファッションのスタイル、ボディラインのシルエットを左右していたのではないかという仮説である。本報告では、長い19世紀という、テキスタイル産業の技術革新と、食糧・原材料輸入の急増をもたらしたグローバル化の時代にあったからこそ、需要側と供給側のもとめる方向性が一致し、大きなファッションのうねりが生まれたのではないかと結論付ける。

[アクセス]

麗澤大学東京研究センター (新宿アイランドタワー 4階)

〒163-1304 東京都新宿区西新宿6-5-1 新宿アイランドタワー4階 4104号室

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■都営地下鉄大江戸線都庁前駅からは徒歩5分

■新宿駅西口からは徒歩10分

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